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Team GENERATION - 読み物 - 小説

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小説の場所へようこそ、ここでは運命の書いたお話仕立てのシナリオを載せています。随意作成中のものは本当にいつアップされるかわかりません!そこらへんは本当にご了承ください!なお、この中には18禁コンテンツも含まれます。18禁アイコンがついているものは濡れ場がある文章だと思ってください。




2006年10月2日投稿、小説:運命、イラスト:HEIM、音楽:A5



恭介は、夜もざわめくネオン街が嫌いである。
別に、祢音が嫌いなのではない……当たり前ではあるが……どうにも、こう色めき立っている町並みに違和感を覚えるのである。
昼間は静かなのに、なんでこんなに夜中は騒々しいんだろうな。
今日は祢音と待ち合わせというわけではない。親戚に、呼び出されたのである。
こんな場所に呼び出すなんて、文句の一つでも言ってやろうかと思うのだが、どうにもその親戚には頭が上がらない。
仕方なくため息を一つついて、最近のため息癖にウンザリしてしまった。
「恭兄、随分と早かったな」

通りの向こう、駅のすぐ近くの公園から、親戚……楠木 宗也が顔を出した。
宗也の身長は、恭介よりも一回りほど高い。それでいて、ほっそりとしながらも肩は結構しっかりという、見事な肉体美をしている。
その身体にふさわしく、端整で見事なまでに調律の取れた顔立ちは、見るものを……例え男だったとしても……魅了してしまうことだろう。
しかし、恭介はそんなことは余り気にしていない。
付き合い自体が長すぎてもうそんなことを気にしている余裕などない。
何より、近くに来られて初めてわかる、その瞳……三日月の形が黒目の中にある、その魔力じみた瞳が、恭介は昔から苦手だったのだ。
宗也は、剣道の竹刀を入れるような袋を二つ、肩から提げていた。
「早かったなって……まぁ、いきなりメール入れられて近かったからだし」
時計を見ると、待ち合わせの一分前という絶妙な時間。
相変わらず、この男は時間ぴったりに到着する。とりあえず、いつものように煙草に火をつけてぷはーと大きく息を吐いた。
「恭兄、煙草はやめたほうがいいとこの前言ったような気がするが、もう忘れたのか?鶏以下の脳みそというわけでもあるまい」
「お前は、本当にその毒舌さえなければいい男なんだがなぁ……」
「別にいい男である必要などない。俺にはちゃんとした許嫁もいるわけだからな。女にもてたって仕方あるまい?」
寝耳に水って言葉をいまさらながら実感する。
あぁ、そうだ、コイツはこういうヤツだった。いまさらこんなことで驚くのも馬鹿らしくてどうしようもない。
また、ため息が出た。
今日何度目のため息なのだろうか。恭介はとにかく、最近苦労性になりつつある自分にがっくり来ている。
「ところで恭兄」
先ほどまでの和やかな空気と違い、ピシっと張り詰めた緊張感のようなものが宗也から感じられ、恭介も煙草の火を消した。
「ここじゃなんだから、公園のベンチにでも行こうか」
恭介の言葉に、宗也は頷く。
公園の中は、閑散としていた。
近場にそういう色街があるせいか、この公園は夜の使用者はほとんどいない。
ただ、それでも空に映る三日月だけが、不気味な光を公園に落としていた。
恭介は、パンパンとベンチの埃を払って腰をかける。
宗也はそれには座らずに近くにあったブランコの鉄棒に背を預けたので、恭介がそこに座った。
「で、話ってのは?」
「まぁ……そろそろうちの親父もうるさくてな。それに、叔父貴も恭兄のことを心配している」
家での話か、と、恭介はやはりまた、ため息をついた。
「恭兄は、そんなに自分の瞳が嫌いか?」
「ん……別に嫌いじゃねぇ。嫌いじゃねぇけど……」
目に……瞳に、恭介は手をかけた。
そして、自らが封印している、異形の瞳を曝け出す。
カラーコンタクトの奥にあるそれは、下半分が淡い黄色をした、半月。宗也の三日月とは違う半月の形が入った瞳だった。
「カラーコンタクトなどせずとも、その瞳を曝け出せばいいと俺は思う」
「宗也が思っても、俺はごめんだな。こんな目をしていたら、友達から不気味がられるし」
別段、本気で気味悪がられたりした経験はほとんどない。
本当に小さい頃、小学生のそれこそ低学年の頃だけだ。それ以降はむしろ、その瞳がかっこいいとか言われたこともある。
そう言われ続けたのは、高校に入ってカラーコンタクトをするまで、ではあるけれど。
煙草に手をかけようとして、ライターのオイルが切れたのを確認し、チッと軽めに舌打ちをした。
「で、本題はそんなことじゃないんだろ?わざわざ出向いてきて、回りくどい言い方をするな。直球で来いよ」
ややうんざりしたような口調になったのは、久しぶりにカラーコンタクトを外したからだろうか。
それとも、ぼやけて見える視界でもはっきりと映る、空に見える三日月と、目の前の男の瞳の中の三日月のせいだろうか。
こんなうんざりした気分だと、脇に祢音がいてほしいと、恭介は思う。
彼女のあのひたむきで純粋な明るさは、鬱屈とした気分を全て吹き飛ばしてくれるからだ。
今度は宗也のほうで軽いため息が漏れる。
「家に戻れ、恭兄。そして鷹山家を継げ」
「それはやだって親父には言った。そもそも、宗家のお前がいるのになんで俺がいまさら鷹山の家を継がなきゃいけないんだ」
「鷹山の家でまともな使い手は恭兄しかいないからに決まっているだろう。そうでなくてなぜ俺がわざわざこんなものを持って恭兄に会いに来なくてはいけないんだ?肩が重い」
ぽんっと、その重さを感じさせずに、宗也は肩に背負っていた布袋を恭介に投げた。
それを、面倒そうな瞳で眺めながらも、恭介はしかと受け取る。
ずしり、と来る重量感にはわずかながらではあるが、自らの香りが残っていた。
その残滓を抑揚なく感じつつも、宗也のほうを見やる。
宗也の手には茶色の封筒、書類などを入れる大きなものがあった。
「帯刀の免許だ。銃刀法違反で捕まりたくはないだろう?」
「いらないって言ってるだろ。それに、俺はもうこいつを抜く気はない」
袋をそのまま、ベンチの脇に乱暴に置く。上質な布と、艶やかな紫がわずかに揺れた。
すぐ上から、吐息が落ちてきたので、そちらのほうに視界を移す。
「いつまでそうやってうじうじしているつもりなんだ。凶月が泣くぞ」
ベンチの脇に投げ捨てられていた袋から、宗也は中身を取り出す。
五尺三寸ほどあるその刀を、宗也は丁寧に鞘から抜き放った。
銀と蒼に輝く刀身は、まるで炎のような波紋を漂わせ、冷たい炎気を周囲に撒き散らしている。
『凶月』という名にマッチングする、禍々しい何かがその刀には宿っていた。
「相変わらず、いい輝きをしているな」
満足そうに宗也は凶月を見ている。
その瞳に宿る三日月には、凶月の青白い光を反射させて不気味な灯火を魅せている。
「お前のほうが名刀を持っているだろうに……」
正直、こういった会話はもううんざりするほど、恭介は経験してきた。
こういう話題でなければ、宗也との会話もつまらないものなどではないのだが、どうにも家の話は嫌いだ。
そんな、不愉快な気分が自分の口から漏れたのに、恭介は自己嫌悪する。
世界から自分が隔絶されていくような、そんな感覚を覚えた。
自分で自分を否定するということは、真の孤独なのだと、恭介は思っている。
誰が自分を見捨てたとしても、自分自身が自分を見捨てなければ、それは決して孤独ではない。
恭介の考えは、そこにある。
だから、恭介は基本的に自己嫌悪などしない。自己嫌悪をするということは、自らを閉ざし、自らを孤独の淵に追いやることと同義なのだから。
「俺の『神月』は楠木家伝来の家宝。国宝にすらなりかねないほどの名刀だからな。凶月だって、今の刀鍛冶では到底鍛え上げられないほどの文化遺産に近いのだから悲観することはないだろう」
「そりゃ、凶月を褒めてるのか神月を自慢してるのか、どっちなんだ?」
多分、両方とも違うのだろう。
だが、宗也がそういう人間だということを恭介はよく理解していても、確認はほしいものだ。
「どっちもだ」
「どっちもかよ!?」
予想外の答えに、眼鏡が思いっきりずり落ちた。
カラーコンタクトを入れなおさなきゃいけないななんて、くだらないこともついでに考えてしまう。
宗也は、凶月を受け取る気もなく、免許のほうも恭介の座っているすぐ近くに投げた。
「……アイツは元気か?」
「いつも通りだ。たまには会いにきてやれよ。仲間だったんだろ?」
アイツ、という言葉に、恭介は一人の人物を思い浮かべる。
祢音とは、かなり仲がよかったななんて思ったりして、苦笑が出た。
「いや、元気だとわかっているなら別に会う必要もない。俺たちも元気だったと伝えておいてくれ」
「自分で言えっての……」
宗也は、それ以上何かを語ろうとはしなかった。
背中を預けていたブランコの棒からゆっくりと背を外すと、闇夜に向かって歩き出していく。
もう、話すことはないと、そういう意識が恭介にも流れてきたので、恭介も何も言うことはなかった。
ゆっくり、ゆっくりと、宗也の輪郭が闇へと消えていく……。
やがて、その闇が宗也の輪郭を全て飲み込んでから、恭介は再び空を見上げた。
白い光が、三日月落ち、闇夜に包まれている大地を照らし出している。
不気味な光に変わりはないけれど、地上に溢れる人工的な温かみのない光に比べれば、その不気味な光のほうがまだ好感が持てると恭介は思っている。
そうして、空を見上げたまま、軽く右手側に触れている、免許を見た。
「あーあー、そういや、持ってけっていうの忘れてたな。畜生」
布袋に入った、己の刀とそれを自由に持って歩ける免許を思いながら、恭介は目を閉じた。